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- 2020.05.23 Saturday
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H谷さんから借りた『空白の5マイル』(角幡唯介著)を読み終えた。辺境の地チベット、世界最大のツァンポー峡谷に挑んだ冒険家のルポルタージュで、正に冒険とはこう云うものかと思わせる、ダイナミックな冒険の記録です。
数々の伝説を伝えた峡谷の空白を踏破しようとした若き探検家の角幡さんの記録、蛭に全身を蝕まれ、灌木もろとも滑落して九死に一生を得、凍傷で感覚が無くなるまで足を痛め、最後には生きて帰る事すら困難な絶望に遭遇した峡谷からの脱出、読み応えのある迫力に圧倒されながら、一気に読み終えてしまいました。冒険家の心の深層に迫る記述がふんだんに盛り込まれ、生と死の狭間でどこか遠くから己の姿を見ているかのような、その心境は圧巻です。
危険で生きて帰ってくる保証もない行為でなければ意味がない、危険な行為を通じてこそ「生きている」と実感する、ストイックなまでの生き方は、冒険家、アルパインクライマー、高所登山家等に共通している「生」のあり方のように思えます。
このように激しい「生」を生きる冒険家達の生きざまは、常人には理解できない部分もありますが「自分は何のために生きているのか」「良い人生とは何だろうか?」等の問いかけには、意識しようがしまいが、生きている限りは皆共通の問いかけでもあると。
しかし、「カネ、権力、健康、ささやかな幸せ、心の平安」、「現実的には別々の形をとりつつ、本質的に求めているのは同じだ」とはいうものの、生死の狭間でその一線を越えて突き進んでゆく冒険家とは、やはり生きている世界が違うように思えます。華美なまでに恍惚とした「生」は、やはりそれを体験したものだけにしか与えられないもののようです。
この記録は、第8回開高健ノンフィクション賞を受賞した作品で、久々に刺激のある読み物に出会えました。